*****送信管アンプ製作記*****
100TH
2000T
Eimac社のガラス球で最大の規格を誇るのが、2000Tです。 2000Tは製造数が少なく、またその大きさ故に、こわれやすく、完全な状態の2000Tには、新品、中古を問わず、まずお目にかかれません。日本の日立、東芝あたりでもEimacの互換球を製造していましたが、それも1500Tまでで、2000Tは製造されなかったようです。そんな、虎の子の2000Tを使って、いっちょうかるーく、モノラルアンプにしてみました。
W E−3 5 7 A
WE−357Aは、プレートロス300W、μ=35、トリタンフィラメント10V/10Aで、RCA系ですと833Aに相当します。しかしながらWE−357Aは、そのカッコウが面白いので、昔から人気があります。真空管マニアの旦那さんに連れられて弊社に来られた若い奥さんは、357Aを一目見るなり、なに―、これ、宇宙人みたい!!、と叫ばれたのには驚きました。なるほど、よく見れば、あのウェルズのSF小説に出てくる火星人に似ていますね。
さて、357Aはソケットが特殊ですので、自作しました。3−1000あたりのソケットのコンタクトが流用できます。プレートキャップは、807用で間に合います。フィラメント電源は、SW電源を使用。SW電源をフィラメント電源に使用することで、この種の大型管アンプは、実に作りやすく、かつ高性能になりました。以前は、SWノイズなどを心配して躊躇していた方々も、今や積極的にSW電源を使用するようになり、最近では、300Bの様な受信管クラスでも使用しているアンプもあり、こちらが逆に驚かされます。
さて今回も、プレートロス100Wほどで軽く使用して、OPTも市販品である、タムラのF−2013を使用しました。出力は、30Wほどですが、同じ出力の845アンプなどと比べても、明らかに出てくる音に迫力があります。規格に余裕が十分すぎるほどあるからなのでしょうか!? また、F−2013と357Aの相性が抜群に良かったせいかもわかりません。グリーンハンマートンのシャーシーに、トリタンの輝きが映えて、これまた、お気に入りのアンプとなってしまいました。〈2013年6月記)
838/805/DET−16 コンパチブルアンプ
838と、同等管である805、さらに上位の英国系の、DET−16も使用できるように考えてみた。WEファンなら、もちろんWE−331Aも使用可能である。
838と805は、805が、トッププレート電極というだけで、規格は同じである。ところが、DET−16はフィラメント規格が、10V/5.5Aと、大飯ぐらいである。トランスのフィラメント巻き線容量が不足して使用できない。そこで、当初より考えていたSW電源を使用することにした。SW電源は、負荷が変化しても、電圧変動がないので、DET−16でも、何の調整もなしで、そのまま差し替えられる。さらに、SW電源を使うことにより、ハムバランサーが不要になり、音もよいことが最近かなり周知されてきた。これを使わない手はない、ちょうど、シャーシーのケミコンスペースが空くのでここに配置できればよいことになる。ハムバランサーはともかく、バイアス調整用の可変抵抗器は、数年後には必ず接触不良、いわゆるガリが起きるので、なるべく使用しないほうが良い。本機は、入力VR以外のVRは無いので、どの球を装着しても調整は全くする必要がない。
さて、DET−16は、805のようなトッププレート電極だが、球が一回り大きく、フィラメント規格も、10V/5.5A、プレートロスは、125Wと大きくなっている。 DET−16には、GEC社のほかに、英国EDISWANなどがあり、古いものには、板プレートのものもある。AT200も同等管である。
いずれもハイμ管であり、これらのハイμB級管の音の特徴はというと、重厚かつ明瞭なトーンが共通しており、845や211などの、ローμ管とは一味違った特徴がある。 (2013年9月記)
TAYLOR T−55 シングルアンプ
811Aと同じクラスの球には、例の808や800などがありますが、ちょっとだけ珍しい球に、T−55という送信管があります。開発は、米国のTAYLOR社で、他には、T−20やT−40などがあり、ご存知の方も多いと思います。今回は、CBS社のT−55を用いて、整流管には水銀整流管の、866JRを用いて音も良し、見ても楽しいアンプに仕上がりましたので、掲載しました。
さらに、このアンプの目玉は、なんといっても866JRの動作中の姿でしょう。866JRは、866のちょうど半分の規格ですので、このぐらいのアンプでしたら、おおげさすぎずに使用できます。青白く光る水銀整流管は見るからに楽しい球で、秋の夜長を楽しむにふさわしいアンプとなりました。(2013 10月記)
DET−1 PP モノラルアンプ
真空管が開発されてから、まもなく100年になろうとする現在だが、時としてとんでもない球にお目にかかることがある。 インターネットが普及したことも手伝ってか、あるゆる球が、新旧を問わずNET上に出回っている。今や、真空管の規格はNET上から、ほとんど入手できる。 NETが普及する以前、西暦2000年以前までは、球はあっても規格がなかったため、オーディオ用としても有望な球が、まだ市場にたくさん残っていた。しかし、今は規格があっても球がなくなってしまった。NET上で規格が分かるや否や、よさそうな球はすべて買われてしまったのだ。まさに、インターネットとは、両刃の剣である。便利にはなったが、その分の代償(デメリット)も大きい。
さて、DET1の規格表もご多分にもれずNET上から入手できる。これによると、フィラメントは、トリタンで、6V/1.9A μは11、プレートロスは、最大35Wとあり、特性曲線までのっている。送信管だがグリッドの+領域は書かれていないことからして、カソホロ直結ドライブは避けたい。さらに、構造的にきわめてデリケートで、ちょっとした衝撃にも耐えられないとわかる。DET1は、このあと数年で、DET25に置きかえられ、形状も大きなナス管から、ドーム型となり、フィラメントも、衝撃にも強いオキサイド酸化被膜型に変わっていったようだ。 だから、特性的には、DET25と何ら変わったところはない。ただし、約100年も前の球なので無理は禁物だ。半分か70%以下の規格で使いたい。調べてみると、Ep=600V Eg=−25Vのとき、Ip=30mA流れることが分かった。 今回は、プッシュプルとし、この時代にふさわしいトランス結合とした。トランスは、手持ちのLUXの3657P、OPTはTANGOのFX50−16Gとした。
早速、試聴したところ、極めて清澄で、かつ馬力もあることに驚いた。数時間で電気的にも音質的にも完全に安定する。PPなので交流点火でよい。LUXの3657Pは、クラーフ結合で使用するが、直流を重畳するタンゴのNCあたりより、低域がよく出る。タンゴのNCシリーズでも、わざわざクラーフで使用したほうがいい音がするという説にも納得した。 (2018−8月記)
RCA−809 PP ステレオアンプ
台形のマッキンアンプ型ステンレスシャーシを使用して、送信管809をPPでアンプを組んでみた。 809はトリタンフィラメント、プレート損失25Wの3極送信管である。
フィラメントは6.3V/2.5Aと手ごろなので、SW電源を用いなくても市販のパワートランスで充分間に合う。
809は、μ=50なので、プラスバイアスの直結カソホロでドライブする。目いっぱい使えばPPで100Wは出る球であるが、コンパクトなシャーシーなのでいろいろ制約がある。
今回もMT管で最も強力な7044でドライブするが、それでも809にとっては控え目な使い方となる。今どきの真空管アンプは出力の大きさよりも、音質と美観を優先したほうが商品価値は高いといえる。計測の結果、無歪最大出力は30W、限界出力は50Wであった。
構成は、初段の6922のSRPPから、6414のムラード型位相反転を経て、7044でカソードフォロアーとして、809に直結するメーカーRCAの推奨する標準的な回路だ。 このようなシンプルで標準的な回路のほうが、安定性、さらには音がよいと思う。 初段を差動型とするとマイナス電源やVRが必要なので止めにし、経年変化の大きいVRや発熱の大きいホーロー抵抗などは排除して、内部は、小型CR類と、ハムバランサーがLとRの2個、チョークコイル5H/300mAと7044用電源のチョーク10H/50mAのみである。
無歪出力は、30Wほどであるが、入力を入れていくどんどん出力は増加し、50Wほどで、それ以上増えなくなるが、これは、7044が限界になるからであろう。
送信管を使って、コンパクトなステレオアンプとしてみたが、KT88やEL156アンプにはない魅力を持ったアンプになった。
809にはセラミックの白いタイトベースのものと、茶色のマイカノールベースのものがあるので、両者の写真を載せておく。これら以外にもいろいろなベースやプレートの色のものが多数存在するので、これはこれで、結構、楽しむことができる。(2019−9月)